「幸せな料理人が幸せな料理を作る」アラン・ウォン
パシフィックリム・キュイジーヌの最高峰を極めた料理人がアラン・ウォン。ワイキキから車で約10分というホノルルのメーンストリートの一つ、サウスキング通り沿いにある何の変哲もない4階建てのビルディング。ここが世界的な名シェフ兼オーナー、アラン・ウォンの牙城。エレベーターを降りて一歩足を踏み入れると、明るく温かいムードのダイニング空間が広がる。エスニックな革新的ディッシュを求め、ローカルはもとより世界中の観光客が集うレストラン。不動の人気を誇るスーパーレストランの偉大なる主、アランさんにお話を伺いました。
日本生まれで母は日本人、祖父は中国人という家に生まれる。ハワイの創作料理パシフィックリム・キュイジーヌ(ハワイ・リュージョナル・キュイジーヌともいう)の第一人者。日本や中国など様々な国のエスニックなテイストを融合させる独特の斬新な料理スタイルは、世界中のファンを魅了してやまない。1996年、全米1のベスト・シェフに与えられる「ジェームス・ビアド賞」を受賞。ハワイで最も評価が高いハレアイナ賞の中でも最高のレストランに贈られる「レストラン・オブ・ザ・イヤー」の金賞は2006年で通算8度目。「イリマ賞」は過去6年連続受賞と数々の賞を総なめ。名実ともにハワイ料理界におけるトップシェフとしての栄誉をほしいままにした男として知られている。
ホームページ:http://www.alanwongs.com

■価格で面食らわすのは僕のスタイルではない----------------------------
マタタビ:世界の食通に愛されている「グルメマガジン」が5年ごとに発表する全米トップ50のレストランで、アランさんのお店が全米8位に選ばれました。ハワイのレストランでは唯一トップ50入りですね?

アラン:
ありがとう。2001年の10月に6位に選ばれ、今回また選ばれたんだ。とても光栄に思っているよ。

マタタビ:リストに名を連ねている面々のコース料理は一人の食事代が$300とか$500というレストランも多いですが、アランさんのレストランではシェフが選んだテイスティングメニューが$85ですね。

アラン:
価格で面食らわすのは僕のスタイルではないんだ。できるだけ多くの人に食べてもらいたいと思っているからね。

マタタビ:どういう経緯で1995年にご自分のレストランをオープンされたのですか?

アラン:
実は1989年にまず、ハワイ島のマウナ・ラニ・ベイ・ホテル & バンガローズに「カヌーハウス」をオープンし、その後オアフ島へ移ってきたんだ。その時にはすでにハワイでは名前が知れていたので、とても歓迎されたんだよ。だから、オープン当初はほとんどロコのお客さんでいっぱいだった。そして、観光客も段々と僕を知ってくれるようになったんだ。今年で11年目になるけれど、今では日本や米本土、海外からもたくさんの方が食べに来てくださっているよ。

■ワイキキで皿洗いから世界のシェフへ----------------------------------
マタタビ:アランさんが料理の世界へ入ったきっかけは?

アラン:
僕は15歳の時にワイキキで皿洗いから始めたんだ。皿洗いのバスボーイのほか、ウェイター、ホスト、レストラン中のすべてのポジションで働き、やっとマネジャーになった。もっと良いマネジャーになりたくて料理教室へ通ってみたら、料理が本当に面白くなってしまった。それでキッチンに入ろうと決めたんだ。最初はワイキキのコーヒーショップのシェフになった。それは1972年頃の話。その後、ニューヨークに渡り、Lutece(ルテス)というフレンチレストランで働いた。料理のことをもっと理解するために熱心にフランス語教室へも通ったりした。ルテスという店は1980年代に全米でナンバーワンだったレストラン。僕が在籍中の1984年にもナンバーワンに選ばれた。その活気はよく記憶に残っていて、とてもいい経験になったと思っているよ。

■異文化が僕の料理に影響-------------------------------------------
アラン:
僕のお母さんは日本人。母と米軍にいた父は日本で知り合い、僕らは子供の時は基地に住んでいたんだ。5歳の時にハワイへ越してきて、7歳の時に両親が離婚。僕は母に育てられたので、日本食で育ったという訳。母はとても料理が上手だから、僕は日本の食材や料理にはとても詳しいんだよ。若い頃に日本、ハワイ、ニューヨークという異なるカルチャーを駆け抜けて体験したことも、僕の料理に大きな影響を与えているだろうね。

■料理のインスピレーションの源は?------------------------------------
マタタビ:日本食では何がお好きですか?

アラン:
君たちと同じだよ。シンプルな料理が好き。餃子、きんぴらゴボウ、おから、茶碗蒸し・・・ 僕は今でも毎朝、豆腐や野菜のお味噌汁を飲んでいるんだよ(笑)。とにかく、シンプルな家庭料理が好きだな。

マタタビ:アラン・ウォンのミソスープは、きっと世界一おいしいでしょうね?

アラン:
ハハハハ(笑)。そんなことはないけど。僕はいろいろな国の料理を自分流のスタイルで創作するんだ。きんぴらも茶碗蒸しも、僕が作れば僕自身のスタイルになる。僕には日本人、(祖父の)中国人、ハワイアンの血が混ざっているんだ。そのせいか、いろいろな国の料理にとても触発されるし、そこから僕自身に何か違った料理をクリエイトするという情熱が湧いてくるんだ。

マタタビ:料理のインスピレーションはどうして得るのですか?

アラン:
食べることが大好きで(笑)、食べ物が好きだから、それがインスピレーションの源だろうな。僕は、おふくろの料理には本当に影響されたと思うよ。誰かが作ってくれた料理とかにも触発されることがあるね。ピッとひらめくんだ。

マタタビ:アランさんは、きっと素晴らしい舌をお持ちなんでしょうね?

アラン:
分からないけど。まぁまぁかもね(笑)。

マタタビ:どんな料理が一番お好きですか?
アラン:
食べることが好きで食べ物が好きだから、全部さ(笑)。その日の気分によって、毎日って違うものだろう? だから一概には言えないよ。

マタタビ:でも、強いて挙げるとするなら?

アラン:
おふくろの料理なら毎日食べられるな(笑)。一生ね。それが答えだよ(笑)。

マタタビ:お母さんの料理で一番おいしいのは?

アラン:
う〜ん、何だろうな。例えば、母が餃子を作るときは皮から作るんだけど、香ばしく焼けるように山芋を入れるんだ。あれが一番おいしいな。とにかく、おふくろは料理がうまいんだ。

■料理の哲学 - 幸せが幸せを呼ぶ-------------------------------------
マタタビ:アランさんが料理に関して大切にしていることは?

アラン:
まず良い素材。そして、提携農場ととても良い関係を築いていること。これで一番美味しい地元の野菜や素材が手に入るんだ。僕らはいつも、そうやって手に入った素材を敬って大切に扱い、創造的であろうと頑張っている。そんなふうにして創作するように心がけているんだ。僕は幸せな料理人が幸せな料理を作ると信じているんだ。料理する時はまず幸せな精神状態でいなくてはいけない。そうじゃないと美味しいものは作れない。これがとても大切なことなんだ。君がもし怒っていたり、幸せじゃなかったりすれば、美味しい料理は出来ないだろうし、良い原稿も書けないだろう?
■ビジネスの哲学 - コミュニケーションが非常に大切----------------------
マタタビ:どんな時にアランさんは幸せを実感しますか?

アラン:
いつも僕は料理を食べる人のひとくち目の様子を見ているんだ。その時に、目や表情を見るとハッピーかどうか分かるんだ。それと、ウチのコックたちが何かとても美味しい料理を作った時も、僕をとても幸せな気分にさせてくれる。僕が教えた何かが伝わったんだな、と感じるからね。従業員たちが何か良い振る舞いをしているのを見るときも、幸せを感じるな。仕事ではみんながチームワークを発揮して一体となり、良い仕事をしているときは僕もスタッフも本当に幸せな気分。それは簡単なことではないけれどね。分かるだろう? みんな個性があり、違う人間だから。誰か一人でも悪いムードの者がいたりすると全体に影響しちゃうだろう? だから、コミュニケーションが非常に大切。誤解というものがいつでも不和の原因になる。ここがビジネスの難しいところだね。だから、いつもコミュニケーションを取っている必要があるんだ。お互いに耳と心をよく開いてね!

マタタビ:まさに命題ですね。

アラン:
そうだろう!
■スタッフ一人ひとりの成功は僕ら全体の成功-----------------------------
マタタビ:今日、アランさんのお店に入った瞬間、スタッフの皆さんのハーモニーをとても感じました。仕事への緊張感とリラックス感がとても良いバランスで、アランさんの理念が全体に反映していると思いました。

アラン:
このようなレストランを継続していくには毎日、本当に多くのスタッフが仕事に関わってくれている訳だけど、すべての人が連携し、お互いに敬意を払い、コミュニケーションを密に取り合って仕事を進めていくことが本当に大切。スタッフ一人ひとりが全体を構成する訳だから、すべてのパートが重要なんだ。それが仕事の哲学。毎日違うし、一人ひとりも異なるから、これはチャレンジだね。忍耐強く、柔軟性を持って、理解しようと努めることが大事。今の時代、ビジネスというのはそう簡単なものではないからね。

マタタビ:アランさんのレストランのウェブサイトにはスタッフのみなさんのプロフィールを並列に紹介してあり、とても社員一人ひとりの尊重を感じますが?

アラン:
そう。彼ら、一人ひとりの成功は僕ら全体の成功だと信じているんだ。だから、彼らを信頼する。本当にそうなんだよ。そうすることで、お互いの恩恵が広がるんだ。ある者は野菜を作り、ある者は料理を作り、ある者はそれをサーブする。僕は指揮者で、他のスタッフが僕の指揮で演奏するようなもの。全体の調和がとても大切なんだ。
■ハワイには素晴らしい最高のライフスタイルがある------------------------
マタタビ:アランさんはハワイを代表するベストシェフですが、ハワイについての思い入れは?

アラン:
ハワイは僕が生涯ほとんどの時間を過ごし、育ってきた場所。美しくて平和で、素晴らしいライフスタイルを味わうことができる最高の場所なんだ。毎日を本当に楽しんでいるよ。まるで大都市のように、様々な国からの人たちも多く住んでいるし、愛する家族もみんなここに居る。

マタタビ:お休みの日はどう過ごされますか?

アラン:
僕は週7日休みなく働くよ。でも、時間があるときは仲間とゴルフへ出掛けるのも好きだな。出張で、様々な場所や国へ飛んで行くことも多い。日本にもレストラン(千葉県浦安市)があるので、年3回は訪れているよ。

■夢は世界が平和であること-------------------------------------------
マタタビ:今後チャレンジしてみたいことは?

アラン:
今4店舗あるけれど、これを5店目、6店目と増やしてみたい。ゆっくりとね。11年でここまで来たので、自分ではとても幸運だと思っているよ。

マタタビ:将来、実現してみたい夢はありますか?

アラン:
う〜ん。とても一般的な夢としては、世界平和。みんなが仲良くなること… ということは、日常レベルでは職場が調和して平和であることが日々願うことで、努力していること。みんなが平和で、お互いが愛し合っている状態であれば、世界全体もそういう場所になるはずだと思う。それが成功の意味だと信じている。共通のゴールに向かって一緒に働くこと、それが成功をもたらす。お客さまに喜んでもらうために、キッチンもサーブするスタッフも一丸となって働く。僕らは食べ物や飲み物をお出しするおもてなしのビジネスをしている訳だから。実にシンプルなんだ。人々に喜んでもらうために幸せな状態で働くということだね。
 
編集後記
世界的にも有名なアラン・ウォンズ・レストランというのに、外観はあまりにも普通のビルで、場所もワイキキやアラモアナではなく、地味に構えていたことに、まずは驚いた。形容詞は少なく淡々と男らしくオープンに信条を語ってくれる姿に、彼の料理と人間への大きな愛と強さを感じた。アランは言う。「難しいのは最大級の称賛を浴びる中で、面白いものを作り続け、新鮮さを保ち続けること」。人を感動させる斬新な料理をコンスタントに生み出し続け、進化し続けるアランさんの源には、シンプルでハッピーな哲学があることを知り、こちらまでパワーをもらったインタビューでした。  (2006年10月)